海苔のおはなし

第67話 芸術家と海苔(2)

海苔のおはなし「59話 芸術家と海苔(1)」で、北王子魯山人の海苔茶漬けを紹介しましたが、今回はその第二弾をお届けします。今回の芸術家は、作家の池波正太郎です。
池波正太郎(1923年- 1990年)は戦後を代表する時代小説・歴史小説作家。戦国・江戸時代を舞台にした時代小説『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』などが代表作の人気作家の一人で、また、食通・映画通としても有名です。

池波正太郎の作品は、人物設定やそのストーリー展開はもちろんのこと、作品全般に出てくる食べ物についての描写にも定評があります。池波正太郎が、作品の中で食べ物のことを書くのは、かつて江戸の町に当たり前のものとして漂っていた情緒、人情のあたたかさ、さわやかな季節感を表現するための、作家独自の一手法としてであったようです。
その中に、海苔をつかった料理の描写もありますので、一部をこちらでご紹介します。

やがて、彦次郎が帰ってきた。
「貝柱のいいのがあったよ、梅安さん。それに豆腐と、子もちの鯊(はぜ)を買ってきた」
「それで、充分だよ」
「どうしなすった。にやにやと、妙な笑いをしてなさるじゃねえか」
「うふ、ふふ・・・・・・こんなことは、私も、はじめてだよ」
「札掛の元締が、そんなに妙な仕掛けをたのみに来なすったのかえ?」
「そうとも、そうともさ、彦さん。まあ、きいてくれ」
それからしばらくして、二人は膳をかこみ、酒を酌みかわしていた。
さっと煮つけた子もち鯊(はぜ)に、湯豆腐である。
貝柱は後で、炊きたての飯へ山葵醤油と共にまぶしこみ、焼き海苔をふりかけて、食べるつもりであった。
(仕掛人・藤枝梅安 春雪仕掛針)


その他には、「白魚を卵でとじ、もみ海苔をかけましたもの」、「葱をきざみ入れた炒り卵に焼き海苔と、実なしの味噌汁という朝餉」、「毟(むし)った甘鯛の上に熱く煮た豆腐を乗せ、焼き海苔をもんでかけた椀盛」など。

食の描写に長けた池波正太郎は、私生活でも食に対しては興味があったようです。食べ物に関するエッセイ集「食事の情景」の中で、池波正太郎自身の食に関する思いを語っています。家にこもって執筆活動を続けていた彼は、食べることが執筆活動中の1つの気分転換になっていたようですし、日々の食事などを日記に綴っていたようです。彼の作品の中には色々な食材や料理が登場しますが、この著書の中で、焼き海苔が彼の大好物であったこと、学生の時には、焼き海苔をごはんの間にはさんだ「のり弁」をお弁当に学校によく持って行ったことも記されています。

彼が亡くなった現在でも、彼の作品に描かれている江戸情緒あふれる食の魅力や旬の食材を抜粋した料理本などが数多く出版されています。紹介されている料理のほとんどは、高級食材などを使用したものではなく、旬の食材をシンプルに調理したものです。現在でも、池波正太郎の食の世界に魅了されるファンが多いのは、年中あらゆる食材を食べられる、便利な時代になった反面、私たちの食をめぐる環境が複雑になり、旬のものをシンプルに調理していただくという江戸時代に普通であった食文化が、現代の私たちには意外と難しく、それゆえに魅力を感じるからだともいえるような気がします。

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